001:時計

 かちこち かちこち。
 同じリズムで歌い続ける針に笑みがこぼれる。
 不恰好だが初めて作ったにしてはなかなかの出来だと、そう思っている。
 誰の時を刻み、誰の命を削っているのかは知らない。知る必要はないし、知ったところでどうと言うこともない。神の命令で時計を作ることが仕事。

 初めて作った時計はかれこれ五十年は動いている。
 この時計の命はあと何年持つのか。この時計が止まった時、その命の持ち主がどこに行くのか。興味がないわけではないが、やはり知ったところでどうすることもない。
 ただ気になるのはこの時計が止まってしまった時、作り手である自分がどうなるのかということだけ。
 先代も最初の時計が止まってしまった時にいなくなったと聞く。
 やはりそうなのだろうか、と五十年経った今、毎朝動き続ける最初の時計を確認して安堵する日々。

 時計はいつか止まるものだ。
 最初の時計が止まってしまえば作り手は消えてしまうのだ。

 かちこちかちこち

 かちこちかちこち

 かちこちかちこ、ち

 かちこち、かち

 かち、こちん


「迎えに来たヨ、時紡ぎ」


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