033:牢の囚人

「結局、人って理不尽だと思うの」

 そう言って彼女は鉄格子の向こうにいる彼に話しかける。

「なんでそう思うんだ?」

 鉄格子の向こうにいた彼はそう訊きかえす。

「だって、私は、私の正義を貫いただけ」

 彼女は備え付けの固いベッドに寝転んだまま言い、跳ねるように上体を起こした。

「なのに牢にぶち込むって、どういう了見かしら。あの人たちの正義と、私の正義が食い違っただけなのに、ねぇ?」

 と彼女は彼に顔を向けると首をかしげた。

「で、あなたはどうしてまたそこにいるのかしら?」

 その動作で彼女がやっと年相応の少女に彼には見えた。

「本当に十代のガキかよ」
「質問に答えなさいおっさん」

 彼の呟きは静まり返った牢で聞き零されることはなく、彼女からキツイ言葉で攻撃された。

「そうだな。嬢ちゃんの言うところの、自分の正義を貫いたからここにいるって感じか?」

 彼は言って鉄格子の傍に寄る。具合を確かめるように、鉄の柱を一本一本撫でていく。

「また脱獄? 懲りないわねあなたも」

 彼女は呆れた風に彼を見、大袈裟に溜め息を吐いた。

「そうして、何か変わった? あなたの世界も、私の世界も、この牢の中で完結しているのに」


 それでもあなたはここから逃げていくのね。


 最後に言った彼女の声は、彼に届きはしなかった。


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