034:契約

 コレハ、契約ダ。

 そう言って、ソレは私の命を刈り取った。


 何が起こったか、理解、出来ていた。
 大きな鎌が、胴を、両断、していた。
 不思議と苦痛は、ない。
 むしろ清々しい、気がする。
 大きな鎌。ソレは、使い手もなく、
 ただ刃を閃かせ、私の胴を、断ち、
 ソレを契約、と言った。

 使い手がいない、大鎌の、使い手になるべく、
 遥々、出向いた、のに、

 意識が、混濁。墜落。
 混ざる、堕ちる。
 光は、ない。
 希望も、ない。
 ただ、暗い方、低い方へ。
 あぁ、わたし、は、

 わたし、って、だれ、だっ、け。


「寝ルナ」
 ガスッ、と脇腹を蹴られた。
 意識の浮上。混濁した意識は、正常に働きだす。
 足の感覚も、ある。
 両断された、はずなのに、

 胴は元に戻っていた。

 その代わり、血の海。
 手に、生温い、ねっとりとした、感触。
「オ前ガ、私ヲ起コシタノダロウガ、馬鹿メ」
 また、脇腹に一撃。
 瞼を上げる。
 私を見下ろす、黒い、影。
「わたし、は、生きて、る?」
「当タリ前ダ、馬鹿メ。ミスミス死ナレテハ適ワヌワ」
 聞き取り辛い、言葉だった。


「鎌ノ契約ヲ、知ラヌトハ言ワセン」
 相変わらず、私は、転がっている。床に。
「鎌の契約、噂は聞いた。痛みを伴う、禍々しき契約」
 それでも、私は鎌使いになりたかった。
「鎌ノ契約ニ、血ハ付キ物。幾人モ、死ニ至ッタ」
 影は未だ、私を見下ろす。
「血の交換だと、文献で。命を取られるとは、」

「違ウ」

 影が、言う。
「命ノ交換。私ガ折レレバ貴様ハ死ヌ。貴様ガ死ネバ私ハ死ヌ。タダソレダケノコト」
 そこで私は、やっと起き上がった。
「死ぬ? 鎌じゃないか、死ぬはずは、」
 あるわけが無い、そう思っていた。
 未だ見下ろし続ける影は、嗤う。
「無知ナル人ヨ、嘆クガ良イ。アノ瞬間ノ私ハ死神ノ鎌ダッタ」
 愕然と、した。
 死神の鎌、だったなんて、そんな、まさか、
「死神ト鎌ハ運命共同体。ドチラガ欠ケテモ神デハナク、鎌ハ主ヲ探シ続ケル」
 今まで見下ろし続けていた影が、ズイと顔を近づける。
 猫のような目をした、焔のような髪をした、女のような、男のような、そんな、ヤツだった。
 頭には、二本の角。悪魔と称される者のような、ソレは、
 鎌のときに在った、二つの飾りで。

「アノ瞬間カラ、オ前ハ私ノ主デ、死神ダ」

 その言葉が、酷く心地よく、しっくりとするのは、何故だったのか。

 私は、理解出来て、いなかった。


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